博士、最近ランニングを始めたんですけど、なんだか逆にストレスを感じることが増えた気がします。ランニングってストレス解消になるはずなのに、どうしてでしょうか?
ふむ、サトウ君、それは興味深い問題じゃ。実はランニングには、ストレス解消だけでなく、運動依存という問題もあるんじゃ。今回の論文「Running to get “lost”? Two types of escapism in recreational running and their relations to exercise dependence and subjective well-being」では、まさにその点が詳しく研究されておるんじゃよ。
運動依存って、どういうことですか?
運動依存とは、運動に対して依存症のような状態になることじゃ。ランニングを止めることができず、むしろそれがストレスや不安の原因になることもあるんじゃ。論文では、ランニングをする動機として、自己拡張と自己抑制の2つのタイプのエスケープがあると説明されておる。
自己拡張と自己抑制って、どういう意味ですか?
自己拡張(Self-Expansion)は、ランニングを通じて新しい経験を得たり、自分自身を成長させたりすることじゃ。これは適応的なエスケープと言える。逆に、自己抑制(Self-Suppression)は、嫌なことや問題から逃れるためにランニングをすることじゃ。これは不適応なエスケープで、心理的な問題を一時的に抑え込むための手段になってしまうんじゃ。
なるほど、それでランニングが逆にストレスになってしまうんですね。具体的にはどういう結果が出たんですか?
論文の結果によると、自己抑制的なエスケープは運動依存と強く関連しており、主観的な幸福感にはマイナスの影響を与えるんじゃ。一方、自己拡張的なエスケープは幸福感とポジティブに関連しておる。ただし、自己拡張もある程度は運動依存と関連しているが、その影響は自己抑制ほど強くないんじゃ。
じゃあ、ランニングを楽しみながらするのは大事なんですね。
その通りじゃ。ランニングを楽しみながら、自分の成長や新しい経験を求めることが重要なんじゃ。問題から逃れるためだけにランニングをしていると、それが逆にストレスや不安を増大させる可能性があるんじゃよ。
なるほど、よく分かりました。これからは、もっとポジティブな気持ちでランニングを楽しむようにします!
うむ、それが良いじゃろう。何か困ったことがあれば、いつでも相談してくれたまえ。
研究の内容を詳しく解説
この論文は、レクリエーショナルランニングにおけるエスケープ主義の二つのタイプとそれが運動依存および主観的幸福感にどのように関連するかを調査しています。エスケープ主義は現実逃避の一形態であり、この研究ではそれを自己拡張(適応的エスケープ)と自己抑制(不適応的エスケープ)の二つの次元で捉えています。調査対象は227人のレクリエーショナルランナーであり、それぞれのエスケープ動機が運動依存および主観的幸福感に与える影響を分析しました。
研究方法
研究では、エスケープ主義の二次元モデル(自己拡張と自己抑制)を測定するために14項目のエスケープスケールを使用しました。また、運動依存を評価するためにエクササイズ依存スケールを、主観的幸福感を評価するために生活満足度スケールを使用しました。参加者はソーシャルメディアを通じて募集され、オンラインアンケートに回答しました。
主な結果
- エスケープ主義の二次元モデルの確認: 確認的因子分析により、自己拡張と自己抑制の二次元モデルが支持されました。
- 相関関係の発見: 自己拡張は主観的幸福感と正の相関があり、自己抑制は負の相関があることが分かりました。また、自己抑制は運動依存と強い正の相関がありました。
- パス分析の結果: 自己拡張と自己抑制が運動依存と主観的幸福感の逆相関に対する説明力を持つことが示されました。特に、自己拡張は幸福感を高める一方、自己抑制は幸福感を低下させることが確認されました。
研究の意義と今後の展開
この研究は、エスケープ主義の二次元モデルがランニングにおける運動依存と主観的幸福感の理解に有用であることを示しています。適応的なエスケープ(自己拡張)が主観的幸福感を高め、不適応的なエスケープ(自己抑制)が運動依存と結びつきやすいことが分かりました。将来的には、他の運動や活動におけるエスケープ主義の影響を調査し、より広範な心理的および社会的影響を解明することが期待されます。
用語解説
- エスケープ主義 (Escapism): 現実や日常生活から逃避するための行動や心の状態。適応的エスケープ(自己拡張)と不適応的エスケープ(自己抑制)の二つに分類されます。
- 自己拡張 (Self-Expansion): 自己の成長やポジティブな体験を求めるためのエスケープ主義。幸福感を高めるとされます。
- 自己抑制 (Self-Suppression): ネガティブな感情や思考を抑制するためのエスケープ主義。運動依存や低い幸福感と関連します。
- 運動依存 (Exercise Dependence): 過度の運動に対する依存状態で、コントロールの喪失や社会生活の障害を引き起こすことがあります。
- 主観的幸福感 (Subjective Well-Being): 自分自身の生活の質や幸福度に対する主観的評価。生活満足度スケールで測定されます。
研究の出典
【題名】Running to get “lost”? Two types of escapism in recreational running and their relations to exercise dependence and subjective well-being
【著者名】Frode Stenseng, Ingvild Bredvei Steinsholt, Beate Wold Hygen, Pål Kraft
【掲載誌】Frontiers in Psychology
【掲載日】2023年1月25日
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