アルツハイマー病に対してまれな遺伝的抵抗性を示す2人目の患者が見つかる?

サトウ助手
サトウ助手

博士、最近読んだニュースで、アルツハイマー病に対して遺伝的に抵抗性を持つ二人目の患者が見つかったって話を聞いたんですけど、詳しく教えてもらえますか?

ハクガク博士
ハクガク博士

おお、サトウ君、いい質問じゃ。このニュースは非常に興味深いものじゃ。今回見つかった二人目の患者は、アルツハイマー病を引き起こすPSEN1-E280A変異を持ちながら、認知機能が67歳まで正常だったんじゃ。

サトウ助手
サトウ助手

67歳までですか!通常ならもっと早く発症するんじゃないですか?

ハクガク博士
ハクガク博士

その通りじゃ。通常、この変異を持つ人は44歳ごろに軽度認知障害(MCI)を発症し、49歳までに認知症になることが多いんじゃ。しかし、この男性はPSEN1-E280A変異を持ちながらも、非常に長い間認知機能が保たれていたんじゃ。

サトウ助手
サトウ助手

でもどうしてこの男性はこんなに長く正常でいられたんですか?

ハクガク博士
ハクガク博士

興味深いことに、この男性は「RELN-COLBOS」というリリン遺伝子の稀な変異を持っていたんじゃ。この変異は通常のリリンよりも強力に作用し、脳内のタウ蛋白質のリン酸化を減少させる働きがあるんじゃ。

サトウ助手
サトウ助手

それってすごいですね。でも、他の遺伝子変異も影響しているんでしょうか?

ハクガク博士
ハクガク博士

うむ、確かにその可能性はある。例えば、APOE3 Christchurch (APOECh) という遺伝子変異を持つ別の患者も認知症への抵抗性を示していたんじゃ。しかし、この男性はAPOECh変異は持っておらず、RELN-COLBOS変異が主な要因と考えられるんじゃ。

サトウ助手
サトウ助手

博士、この研究から何がわかるんですか?

ハクガク博士
ハクガク博士

この研究は、特定の遺伝子変異がアルツハイマー病に対する抵抗性をもたらす可能性があることを示しておる。これは将来的な治療法の開発に役立つかもしれんのう。

サトウ助手
サトウ助手

なるほど、遺伝子の研究が病気の治療に繋がるんですね。

研究の内容を詳しく解説

この研究では、アルツハイマー病(AD)に対する稀な遺伝的抵抗性を持つ2人目の患者が発見されました。この患者は、常染色体優性遺伝(ADAD)のアルツハイマー病に対して抵抗性を示し、PSEN1-E280A変異を持つにもかかわらず、67歳まで認知機能が保たれていました。この患者は、Reelin(RELN)遺伝子にCOLBOS変異(H3447R)をヘテロ接合で持っており、これが認知機能の保持に寄与している可能性が示唆されました。

研究方法

  1. 対象者の特定: PSEN1-E280A変異を持つ1,200人以上の家系から抵抗性を示す患者を特定。
  2. 遺伝子解析: 患者の全エクソームシークエンス(WES)と全ゲノムシークエンス(WGS)を実施。
  3. 分子生物学的解析: RELN-COLBOS変異の機能を評価するため、in vitroおよびin vivoの分子遺伝学的研究を実施。
  4. 神経画像解析: アミロイドPETとTauPETを用いて脳内のアミロイド斑とTauタンパクの蓄積を評価。
  5. マウスモデルの作成: RELN-COLBOS変異を持つノックインマウスを作成し、神経病理学的および行動学的解析を実施。

主な結果

  1. 認知機能の保持: 患者は67歳まで認知機能が保たれ、70歳で軽度認知障害(MCI)、72歳で軽度認知症と診断。
  2. 遺伝的特徴: 患者はAPOE3/APOE3型で、APOECh変異を持たず、RELN-COLBOS変異をヘテロ接合で持つ。
  3. 神経病理学的特徴: アミロイド斑の蓄積は高いが、Entorhinal Cortex(ERC)におけるTauタンパクの蓄積は限定的。
  4. 分子メカニズム: RELN-COLBOS変異はDab1のリン酸化を増加させ、Tauタンパクのリン酸化を抑制する機能を持つことが確認された。
  5. マウスモデル: RELN-COLBOS変異を持つマウスはDab1のリン酸化が増加し、Tauタンパクの蓄積が抑制され、運動機能の保持が観察された。

研究の意義と今後の展開

この研究は、アルツハイマー病に対する新しい遺伝的抵抗性メカニズムを解明し、RELN-COLBOS変異がADADに対する保護効果を持つ可能性を示しています。この発見は、将来的にアルツハイマー病の予防や治療に向けた新しいアプローチを提供する基盤となるかもしれません。特に、RELNシグナル伝達経路の調節がTau病理の抑制や認知機能の保持に寄与する可能性があるため、これをターゲットとした治療法の開発が期待されます。

用語解説

  • 常染色体優性遺伝アルツハイマー病(ADAD): 遺伝性のアルツハイマー病で、特定の遺伝子変異により発症する。
  • PSEN1-E280A変異: プレセニリン1遺伝子の特定の変異で、ADADの原因となる。
  • RELN-COLBOS変異: Reelin遺伝子のH3447R変異で、アルツハイマー病に対する抵抗性を示す。
  • Dab1: Reelinシグナル伝達経路の中で重要な役割を果たすタンパク質。
  • アミロイドPET: アミロイド斑の蓄積を可視化するためのポジトロン断層撮影法。
  • TauPET: Tauタンパクの蓄積を可視化するためのポジトロン断層撮影法。

研究の出典

【題名】Resilience to autosomal dominant Alzheimer’s disease in a Reelin-COLBOS heterozygous man
【著者名】Francisco Lopera, Claudia Marino, Anita S. Chandrahas, Michael O’Hare, Nelson David Villalba-Moreno, David Aguillon, Ana Baena, Justin S. Sanchez, Clara Vila-Castelar, Liliana Ramirez Gomez, Natalia Chmielewska, Gabriel M. Oliveira, Jessica Lisa Littau, Kristin Hartmann, Kyungeun Park, Susanne Krasemann, Markus Glatzel, Dorothee Schoemaker, Lucia Gonzalez-Buendia, Santiago Delgado-Tirado, Said Arevalo-Alquichire, Kahira L. Saez-Torres, Dhanesh Amarnani, Leo A. Kim, Randall C. Mazzarino, Harper Gordon, Yamile Bocanegra, Andres Villegas, Xiaowu Gai, Moiz Bootwalla, Jianling Ji, Lishuang Shen, Kenneth S. Kosik, Yi Su, Yinghua Chen, Aaron Schultz, Reisa A. Sperling, Keith Johnson, Eric M. Reiman, Diego Sepulveda-Falla, Joseph F. Arboleda-Velasquez, Yakeel T. Quiroz
【掲載誌】Nature Medicine
【掲載日】2023年5月

コメント

タイトルとURLをコピーしました