博士、最近お寿司を食べた後にお腹が痛くなったことがあるんです。友人から「アニサキス」という寄生虫が原因かもしれないって聞いたんですが、本当でしょうか？
そうじゃな、サトウ君。それは「アニサキス症」と呼ばれるもので、アニサキスという寄生虫が原因で起こるんじゃ。生や未調理の魚介類を食べると、アニサキスの幼虫が体内に入ってしまうことがあるんじゃよ。
ええ、怖いですね。それに対して、何か対策はないんでしょうか？
ふむ、実は最近の研究で「正露丸」がアニサキスに効果があることがわかったんじゃ。Matsuoka K と Matsuoka T の研究によれば、正露丸に含まれる木クレオソートがアニサキスの幼虫を殺すことが確認されたんじゃよ。
サトウ助手：正露丸って、お腹の調子が悪いときによく飲むあの薬ですよね？それが寄生虫にも効くなんて驚きです。どうして効果があるんですか？
正露丸の主要成分である木クレオソートが、アセチルコリンエステラーゼという酵素を抑制することで、アニサキスの動きを止めるんじゃ。それによって幼虫は死に、消化されやすくなるんじゃな。
そうなんですね。でも、具体的にどうやって実験したんですか？
研究では、正露丸の溶液にアニサキスを浸して30分間置き、その後、染色して幼虫が死んでいるかどうかを確認したんじゃ。結果として、正露丸で処理した幼虫の大部分が死んでいることがわかったんじゃよ。
30分間浸すだけで効果があるんですね！実際にお腹の中でも同じように効くんでしょうか？
うむ、研究では胃液を模した環境での実験も行われており、正露丸で処理した幼虫は胃液でしっかり消化されることが確認されておる。これにより、胃壁に深く侵入する前に幼虫を殺すことができる可能性があるんじゃ。
それなら、お寿司を食べた後にお腹が痛くなったときには正露丸を飲むといいかもしれませんね。
そうじゃな。ただし、これはまだ臨床試験が必要な段階じゃから、確実な対策としては生魚をしっかり冷凍するか、完全に加熱することが一番じゃな。
なるほど、冷凍や加熱も重要なんですね。博士、いつもありがとうございます！
どういたしまして、サトウ君。いつでも相談してくれたまえ。
研究の内容を詳しく解説
この研究は、一般用医薬品である「正露丸」が寄生虫アニサキスを殺す効果を持つかどうかを検証したものです。アニサキスは生魚や加熱不十分な魚介類に寄生し、食中毒（アニサキス症）を引き起こします。現在、アニサキスに対する効果的な薬は存在しませんが、正露丸に含まれる木クレオソートがアニサキスの運動性を抑制することが報告されています。
研究方法
- 試料準備: サバやタラからアニサキス幼虫を抽出し、0.9% NaCl溶液中で室温（約25℃）で保存。
- 正露丸の処理: 正露丸1錠を0.01 M HCl（5 mLまたは10 mL）に溶解し、アニサキス幼虫をこの溶液に30分間浸漬。
- トリパンブルー染色: 正露丸処理後、幼虫をトリパンブルー溶液に移し、死んでいるかどうかを確認。
- ペプシン処理: 正露丸処理後、幼虫をペプシン溶液に24-48時間浸漬し、消化されるかどうかを観察。
主な結果
- 運動性の抑制: 正露丸溶液（1錠/5 mLまたは10 mL）で処理されたアニサキス幼虫は30分以内に運動を停止。
- トリパンブルー染色: 正露丸処理後のアニサキス幼虫は、24時間後に91.7%がトリパンブルーで染色され、死んでいることが確認された。
- ペプシン消化: 正露丸処理後、ペプシン溶液で24時間処理されたアニサキス幼虫の83.3%が消化された。
研究の意義と今後の展開
この研究は、正露丸がアニサキス幼虫を殺す効果を持ち、その後消化酵素で分解されることを示しています。これは、アニサキス症の治療における新たなアプローチとなる可能性があります。正露丸の成分は幼虫の体表から吸収されるため、胃壁に部分的に侵入した場合でも効果が期待されます。今後は、臨床試験を行い、実際に胃壁に付着したアニサキス幼虫が正露丸の経口投与で殺されるかどうかを確認する必要があります。
用語解説
- アニサキス: 魚介類に寄生する線虫で、人間が生魚や加熱不十分な魚を食べることで感染する。
- 正露丸: 日本で一般的に使用される胃腸薬で、木クレオソートを含む。
- 木クレオソート: 正露丸の主成分で、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤として知られている。
- トリパンブルー染色: 死細胞を選択的に染色するための試薬。
- ペプシン: 胃液に含まれる消化酵素。
研究の出典
【題名】Over-the-counter medicine (Seirogan) containing wood creosote kills Anisakis larvae
【著者名】Kou Matsuoka, Tatsuomi Matsuoka
【掲載誌】Open Journal of Pharmacology and Pharmacotherapeutics
【掲載日】2021年7月1日
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